迎山直樹さん迎山さんの工房横ギャラリーにて

目次

家具の中でも「椅子」は一般的に難しいと言われると思いますが、迎山さんが、「椅子」を作るということに特化されたのは何故なのでしょうか?

よく取材でも聞かれるんですけれど、偶然というか思いつきなんです。
僕が木工を始めたのは30歳からで、比較的遅まきです。
それまでは東京にいたのですが、学生の頃(1980年頃)時代がバブルだったこともあって、学生起業家みたいなのが流行っていた。
僕も仲間と一緒に起業して、広告関係というかイベント屋さんを立ち上げたんですけれど、結構安易に仕事が取れたんですよ。

そこに、常にジレンマがあって。
自分たちはそれほど大したことが出来ないのに、知り合いが仕事をくれて、仕事がまわっていく。
売上もそれなりに増えていくけれど、これはおかしいだろう、と。

それから、広告というのは商品を売りたいクライアントがいて、例えば食品だとしたら、たとえその食品がおいしくなかったとしても「おいしいですよ」と言わなければいけない仕事です。
自分が納得していないのに、良いプレゼンをしなければならない。
それに対するジレンマもありました。

30歳くらいまでその仕事をやっていたのですが、バブルの終焉と共に会社が駄目になりました。
で、とりあえず田舎に帰るんです。
帰って何をしようかという話ですが、その会社がつぶれる前に、一緒にやっていた7~8人で飲んでいて「もし今の仕事やってなかったら何をやりたい?」という話になった時に、僕は何故か「椅子」って言ったんですよ。
椅子が好きとか、何の根拠もなかったけれども。
それを思い出して。

ものづくりには嘘がない。
作ったものが良ければ良いと言われるし、悪ければ悪いと言われます。
自分の技量とセンスしかない。
僕は技術とか美術が実は苦手で、ずっと不器用と言われていたことへの反発と、ものづくりに対する憧れもあったんですね。

迎山直樹さん

いきなり椅子を作ろうと思っちゃったんですね!

その当時は訓練校とか情報がなかったので、近所で木を触れるところを探しました。
自転車で通える範囲で、1軒フラッシュ家具を製作している会社があったので、そこに勤めさせてもらいました。
椅子は作っていないけど、機械はほぼ一緒。
図面から物が形になる過程や、木工機械の使い方なんかをそこで学びました。

でも、元々椅子を作るためにやっていたので2年で辞めて。
その後岡山県の東粟倉村(現在は美作市)のクラフトハウスという場所に紛れ込ませてもらって「チェアメーカー」という看板を上げました。

ということは、椅子づくりは独学なんですか?

独学です。
誰か師匠についたわけでもなく学校に行ったわけでもない。
ただ、色んな人に色々聞きました。
自分には物が出来ないという前提があったので、とにかく色んな人に聞いてまわりました。

椅子って基本的には道具ですから、人が使ってどうなのか、という機能性が大事だと思うので。
座ってもらってどうなのか、デザインはどうなのか、色々聞いて教わりましたね。

Tenon合同会社外観Tenon合同会社外観。正面がギャラリーで、左手に工房がある。

ちょうど、ものづくりの中で大事にされていることについてお聞きしたい、と思っていた所です。機能性といっても色々あると思いますが。

最初に椅子づくりを始めたとき、「手作り木工事典」があって、あの本は色んな木工家のお手本だったりしたんですけれど、(その本には)谷(進一郎)さんとかが出ておられて、作家なわけですよ。
だから最初僕は「椅子作家」になろう、と思っていました。

でも、作家として「作品」を作っていたら、ジレンマがあって。
技術的な背景がないとか不器用とか、そういうジレンマもあるんですけれど、「作品」って何?と考えた時に、それが「自分の中から湧き上がってくる何かを形にしないではいられない衝動」みたいな事だとすると、僕にはそれはないと気付くんです。
割と冷めてるというか、本当に衝動がない。

じゃあ「作品」から「商品」へシフトしようと。
「商品」である以上は、メーカーのように図面を書いて、反復生産出来るようにして、マーケティング的なものを考えなければいけない。
要するに人が座ってどうなのか、使ってどうなのか、という所ですよね。
「作品」を作るのであれば、人の座り心地や使い勝手はどうでもいい。
立ち位置を変えて「商品」を作ろうと思ったとき、自分の立ち位置が少しクリアーになった。

それで、作って、使い勝手を人に聞いて、修正して、また作って・・・を繰り返すうちに、何となく線が出来てきた。
自分ではデザインしていないのに、デザインになった。
道具としての機能性というのは、道具というのは人の手なり、体なりが使うものなので、自分の表現欲求ではなくて、単純に人が使ってどうなのか?ということ。
道具としての機能性というのが芯にあって、自分でも「これでいいんじゃないか」と思える椅子が出来てきた。

ただ、「商品」というとまたジレンマがあるんです。
「座り心地」や「形」「軽さ」「美しさ」ということにプラスして、「価格」というのも商品の機能の一つだと思うのですが、僕らが作るとどうしても高くなる。
もしもメーカーが同じものを作れるとしたら、手作りだから、という曖昧な説明で高いものを作るのはおかしい。
それで色々考えて「用品」という言葉を思いつきました。
ものづくりの昔からの立ち位置ですが、数を作らない、手の届く範囲でだけ作る、ということなのかな。

工房内の様子。元々佐用町立の木工体験施設を借り受けて、そのまま使っているそう。工房内の様子。元々佐用町立の木工体験施設を借り受けて、そのまま使っているそう。

メーカーが作れるものを、僕らがわざわざ手をかけて作ることには意味がない。
人の手だからこそ出来るものを追求していく必要があります。

例えば、ちゃんと木を見るとか、使い方を考えるとか、材料と向き合うこと。
うちの社名は「Tenon(注1)」という名前をつけていますけれど、メーカー家具で効率的につくろうとするとホゾはやらないです。
でも(ホゾは)圧倒的に構造的に強い。
見えないところだけれど、敢えてそれをやることにローテクで作る意味がある。

それから、手の跡を残すということ。
NC(機械)では却って手間がかかって出来ないような、ちょっとしたディテールを残す。
小さなディテールですが、見る人は見ていて感じ取ってくれる。
それは「いびつさ」にも通じると思いますが、本当の直線や曲線って気持ちが悪いものだと思います。

数を作らないというスタンスについては、スタッフが今二人いますが、増えるとしてもあともう一人くらい。
それ以上増えると、自分自身が作り手ではなく、営業或いはデザイナー的なスタンスでやらなければならなくなるし、目が届かなくなります。
自分の手と目が届く範囲でやっていきたいと思っています。

Tenon合同会社

(注1):「Tenon」は英語で「ホゾ」という意味。「ホゾ」とは木材同士を接合する方法の一つ。「ホゾ穴」と「ホゾ」の突起の2つの部品をぴったり組み合わせることで、木材同士を強固につなぐことが出来る。

塗装についてですが、量産型家具の場合はウレタン塗装が主流ですよね。また、木工作家さんの場合は、ほかに漆という選択肢もあると思うのですが、迎山さんがオイル仕上げを採用されているのはどうしてですか?

単純にウレタンとの比較で言えば、ウレタン塗装は表面にのせるものなので、木ではないものが上にのってしまうと、作り手としては嬉しくない。
木の手触りにこだわると、浸透性のものでないといけない。

漆も自然塗料ではありますが、表面に塗膜を作りますから、漆の手触りになるんですよ。
出来るだけ木の手触りそのままが良い。
塗らないという選択もあるんですけれど、オイルは塗るとしっとりして、何も塗らないのとも違います。
あと、樹種にもよるけれど、例えばウォルナットなんかだとオイルを塗ると深みが出ます。
時々、ソープフィニッシュもやりますが、汚れ防止という観点からはオイルがいい。

椅子って使っているうちにお客さんが磨いていくんですよね。
だから、覆ってしまわないようにしたい。
ただし、使い始めてすぐに汚れるようだとやっぱり困るので、初期的に汚れにくくしておいて、後はお客様におまかせして磨いていってもらう。
そのへんの加減が(オイルが)丁度良いですね。

最近、迎山さんは創作活動以外にも「チェアキャンプ」(木工作家さんの合宿)や、「グリーンウッドワーク」(注2)のイベントなど、色々な活動されていらっしゃいますね。作家さんというと、一人で黙々と創作されるイメージがありますが、迎山さんは何故そういった活動をしようと思われたのでしょうか?

(注2)グリーンウッドワークとは、身近な森から生の木を伐り出し、人力の道具で削って、小物や家具をつくる木工のこと。 乾燥していない生の木(英語で「green wood」)を使うので、この名前がある。

2019チェアキャンプでのワークショップの様子

僕自身がそういうことを始めたのはごくごく最近です。
きっかけは一昨年「名古屋木工家ウィーク」を見に行ったこと。
ご存知のように、日本で一番大きな木工家のイベントで、参加人数も多いし、集客もそれなりにある。
前々から興味はあったのですが、見に行って実はショックを受けたんですよ。

これでいいんだろうか、と。
これが日本の木工家だ、というイベントにしては余りにも玉石混交だった。
何とかした方がいいんじゃないか、と思いまして。

折角の場所ですから、その場を活用して作り手同士がコミュニケーションを取り合って、お互いに技術と意識の向上を図ったほうがいいと思うんです。
単純に作った物を持ってきて、並べて、(木工家が)沢山いますよ、ではなくて。
夜の懇親会も人数が多すぎるせいもあるけど、ただの雑談の場になってしまって非常にもったいないと思った。

ものづくりって、自分のことに集中しすぎて周りが見えなかったり、技術も自分のやり方でしかやらないから中々変わりません。
それが、情報交換することによって、作業の効率が良くなったり、技術が向上したりします。
折角個人の蓄積した技術が、その人だけで終わるのでなくて、木工界全体で共有したほうがいいですよね。
それで、ギルドみたいなものを作ろうと思った。
ただ、その大義には皆賛同してくれるけれど、いざ「自分が何かやる」となると面倒なんですよね。

コンセプトだけを話していても始まらないので、まず実際に自分がやってみたいことをやるしかないと思って、最初にやったのがチェアキャンプ(2018)です。
これは2泊3日の合宿で、参加条件は自分の作った椅子を一脚もってくること。
作り手同士のコミュニケーションをとるのが目的です。

2019チェアキャンプ。2019チェアキャンプ。夜の「チェアバー」ではそれぞれが持ってきた椅子について、お酒を片手に皆であれこれ話し合う

グリーンウッドワークについては、昨年2月に岡山大学の山本先生が、授業で久津輪さん(岐阜森林文化アカデミー准教授)を招いた時に、僕も行って実際に体験させてもらいました。
そうしたら、今までの自分の木工体験、木工機械を使って、乾燥した外国の材を加工する、というのと全く違っていて。
木を刃物で割って、刃物で削る、ということにすごくリアリティがある。

それで、2018チェアキャンプには久津輪さんにシェービングホース(注3)を持って来てもらい、参加者でグリーンウッドワークを体験するワークショップをやりました。

(注3)生木を加工するための作業台。削り馬。

グリーンウッドワークで生まれるのは、生木の削り屑

グリーンウッドワークの材料は用意してください、と言われたので近くの山に木を伐りに行きました。
それほど太い木ではなかったので手鋸で伐ったんですが、それが衝撃的な体験で。
その時初めて木が生き物だということを実感したんです。

伐っているうちに、鋸が濡れるんですよ。
今も水を吸い上げていて、これから先も生きていこうとしているものを、自分たちの都合で伐って材料にしてしまおうとしている、と。
それまでにも、木は生き物だというのは、僕は受け売り的には言っていたわけですが、ちゃんと木に向き合っていなかった、と思った。

僕は「樹」という字を最近使うんです。
材料としての「木」ではなく、立木としての「樹」に向き合うこと。
そういうものづくりが、僕らの規模で物を作る人間に出来ること。
無駄に使わないとか、素材をリスペクトすることで、人の手だからこそ出来るものが生まれていくと思います。

今年4月にはKIITO(神戸デザインクリエイティブセンター)でも「樹を削る」というイベントを開催されましたね。

「樹を削る」イベント会場の様子。「樹を削る」イベント会場の様子。

「樹を削る」は、「樹」が生き物であるということを、作り手だけではなく、使い手の人にも共有してほしいという思いでやりました。
「削る」だけで本当に大丈夫かな、という心配はありましたけど(笑)、参加された皆さんからは面白かったと言われました。
ものを作る欲求って、誰にでもあると思うんです。
4歳の子供でも集中してやっていたのは見ていて驚きでした。
4歳の女の子が刃物を持っている姿って、なかなか今の日本では見ないですよね。

「樹を削る」も、本来はギルドがやるべきことの一つだと思います。
作り手が使い手に対して、ある程度自分たちが何をしているのか伝えるべきです。
勝手に一人社団法人というか、木工家としてやるべきことをやっている感じですが、このイベントには28人もの作り手が、手弁当で協力してくれました。
動けば人がついてくるかもしれないので、動いていくしかないかなと。

最初ギルドを創ろうと思ったとき、吉野(崇裕)さんに言われたんです。
「建前より先に行動があるべきだ」と。
吉野さんは、山梨県で森林を購入して、木工の研究や体験が出来たり、島崎(信)先生のコレクションが見られる場所を作ろうと活動されています。

僕が2018年チェアキャンプをやったら、吉野さんも山梨でやりたいという風に広がって。
そうしたら今度は、高橋(三太郎)さんが北海道でもやりたい、と言ってくれて。
何かしら波紋が出てくるんですよ。
こういうのは誰がやってもいいし、それぞれの地域ごとにやって、それが全部繋がっていったら一番いいと思いますね。

9月3日より16日まで、神戸の竹中大工道具館で第9回一脚展を開催中ですね。一脚展について教えてください。

一脚展は今年で9回目、来年で10年目になります。
僕は立ち上げメンバーではありませんが、最初は三宮の地下のギャラリーを借りて、後藤(雅宏)さんがメンバーを集めて展示を始めたことが始まりです。
売ることが目的ではなくて、一般の方に自分たちの創ったものがどうなのか、見てもらって評価してもらうということが目的でした。

会場が竹中大工道具館に移ってから4~5年くらい経ちます。
昨年までの展示は、それぞれが一脚、新しく作った椅子を展示して、それまでに作ったものも一緒に並べて、PRするような形でした。

開催中の一脚展の様子。全ての椅子に自由に座ることができる。
来場者には、デザインや座り心地などの観点から、好きな椅子を選んでアンケートに回答してもらう。

今年は「六甲山の樹」を使うという新しいテーマに取り組まれていますね。

今迄あまり考えたことのない「地元の材料をどう使うか」というテーマに対して、メンバーにはストレスもあったと思います。
でも、このテーマを設けたことで、それについて考え始めた人もいると思いますし、それぞれの切り口から地域材の利活用が提案されていて、とても良い展示になったと思います。
今迄は2~3人のメンバーを中心に展示会の運営をやっていたんですが、今年は全員でやろうと。
15人もいると役割分担をしていても、いろんな意見が出てきます。
やったほうがいいことが増えて、ここまでやるか?という感じにもなったけれど、今迄より内容が濃くなったと感じています。

展示会場である竹中大工道具館は、まさに六甲山を背景に抱えている場所なので、是非沢山の人に見て欲しいですね。
また、地域材の活用というテーマは、全国どこにでもある問題です。
地元の人だけではなく、そういった問題を抱える全国の人にも見て頂けると、色んなヒントになるんじゃないかと思います。

特別展示ブース「六甲山の樹を使う」。六甲山の素材を使った個性的なプロダクト提案が並ぶ。

本日はどうもありがとうございました。

 

迎山 直樹さんプロフィール

Tenon合同会社 代表
1994 chair maker 「Small Axe」設立
2009 Tenon合同会社 設立
2014 IFDA旭川国際家具コンペティション 最優秀賞「ゴールドリーフ賞」受賞(ST-Chair)
2015 グッドデザイン賞 BEST100特別賞「ものづくりグッドデザイン賞」受賞(ST-Chair)
2015 日本民藝館展「奨励賞」受賞(T-Chair)

Tenon合同会社のホームページ
http://small-axe.jp/index.html

第9回一脚展ホームページ
https://ikkyakuten.jimdo.com/

【今後の展示会出展予定】
10月19、20、21日の3日間、京都建仁寺塔頭 両足院にて「きょうと椅子」に出展。
https://www.kyotoisu.com/

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